だが、近年の側近はイエスマンばかりで、密室政治の弊害が出ているとも指摘される。
2月24日の軍事侵攻前には政権内にも慎重論があったという。欧米諸国が結束してロシアに経済制裁を科し、北大西洋条約機構(NATO)拡大の口実にされる懸念があったからだ。「実際にそうなったが、慎重派の意見をプーチン氏は受け入れなかった」(外交筋)
聞く耳を持たなくなったのは、右腕となる側近がいなくなったからだとの指摘もある。
「プーチン氏を長く支えてきた人物に、セルゲイ・イワノフ前大統領府長官がいました。プーチン氏とはレニングラード大学の同期で、KGBでも一緒。プーチン氏が気軽に相談できる数少ない政治家でした。ところが、16年に辞任を申し出て、自然保護活動などを担当する大統領特別代表に格下げとなった。更迭説もありましたが、最愛の息子を事故で失って気力が衰えたと言われています」(前出の外交筋)
そのプーチン氏と対峙するのが、ウクライナのゼレンスキー大統領だ。
ゼレンスキー氏は元コメディー俳優で、世相を鋭く笑いに変える芸風で人気者になった。「裸でギター」や「股間でピアノを弾く」といった宴会芸も得意で、15年にウクライナで放送されたドラマ「国民の僕(しもべ)」に出演。高校教師が大統領になって奮闘する役を演じた。
そのドラマの脚本に合わせたかのように19年の大統領選に出馬すると、73%という高得票率で当選。ウクライナ政治に新風を吹き込んだ。
「ところが、大統領に就任してからは、ウクライナ政治の腐敗一掃の公約実現は難しく、経済も低調なまま。昨年には、国外の租税回避地(タックスヘイブン)の秘密企業に資産を移動させていたことが報道で発覚し、支持率が19%まで落ちました」(外務省関係者)
日本国内でもゼレンスキー氏の評価は決していいものではなかった。ウクライナ侵攻前までは「政治は素人。何をやるかわからない」(官邸幹部)の声もあったほどだ。