個人的な実感を書き、自分が自由になるプロセスが作品になっていった。使命感ではなく、自由に書いていきたいという思いが強い(写真=植田真紗美)
個人的な実感を書き、自分が自由になるプロセスが作品になっていった。使命感ではなく、自由に書いていきたいという思いが強い(写真=植田真紗美)

 俳優の青山祥子は山田に「演出家の言葉は100%じゃないからね」と言われたことを覚えている。年上の男性の演出家が多いなか、演出家の言葉は絶対だった。自分で主体的に考えていいのだと、同世代の山田に言われたことに衝撃を受けた。

 子役から仕事をしてきた田島ゆみかは、「観客の満足と同じくらい、俳優やスタッフの満足度を気にするから」と公言する山田に「救われた」と言った。自信を奪われ萎縮させられることが多い社会で、自分がしたいことをしていいのだと、「贅沢貧乏」を通して信じられるようになったのだ。

■演技経験のない女性の起用 情報解禁日に大きな話題に

 演劇を続けるためにムリをするのではなく、持続可能な方法を模索し、創作の過程すら創作していく「贅沢貧乏」は、山田の研ぎ澄まされた感覚によって、新しい時代を予感させる芝居を次々と発表していった。中でも、20代の女性が深夜に味わう孤独、焦燥感を、3匹の「虫」が演じる「みんなよるがこわい」(15年初演)は、17年には中国でも上演された。国境を越えた共感を呼び、演劇関係者の間で山田の名前は一気に広まった。18年には中国版が制作され、以降、中国各地で毎年再演されるようになった。コロナ禍ではオンラインで演出をし、20代の中国人俳優たちは「俳優に合った演出をその場ですぐ考えつく。凄い才能」と山田を深く信頼し、その才能への憧れを口にした。90年代生まれの女性たちが中心となった「贅沢貧乏」の世界は、着実に人々を巻き込みはじめていた。

 山田にとって大きな転機となったのは、20年、ABEMAのドラマ「17.3 about a sex」の脚本家に起用されたことだった。ABEMA側が当初意図していた「女子高校生のロストバージンをテーマにしたコメディタッチのドラマ」という企画を超え、山田は高校生の性を描くこのドラマに、フェミニズムの思想をちりばめた。人権、尊厳、性的同意、セクシュアリティー、望まない妊娠、生理のリアル……。全9話全てが教育的でありながら、エンターテインメントとしての完成度が高く、「17.3 about a sex」は「日本初の性教育ドラマ」として大きく話題になった。(文中敬称略)

(文・北原みのり

※記事の続きはAERA 2023年1月23日号でお読みいただけます

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