画像:母親提供
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■他者を尊重する大切さ

 ネットの誹謗中傷問題に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの山口真一准教授が行った調査では、「炎上」に参加している人の60~70%は「許せなかったから」「失望したから」などの理由で、攻撃を仕掛けていたという。

「自分が正しくて相手が悪い、だから攻撃するんだというロジックです。その人なりの正義感からですが、それは社会的正義ではなく一人ひとりの価値観における正義感。やっていることは、リンチと変わりません」

 山口准教授は、SNSの普及により今や誰もが自由に発信できる「人類総メディア時代」になったと指摘する。

「その中でも特に、協調性が低く、他人や社会に対して否定的で、攻撃的な価値観を抱いている人が炎上に加担しやすい傾向にあります」(山口准教授)

 ネット上の誹謗中傷の削除の訴訟を多く手掛ける小沢一仁(かずひと)弁護士は、「デマ」による誹謗中傷は名誉毀損に相当する可能性があると話す。

「実際に一昨年、ネットでデマを拡散した男性に相手への名誉毀損で33万円の賠償を命じた判決が出たケースもありました。皆が言っていたから信じたというのは理由になりません。発信する際は、一次情報にしっかり当たることが大切です」

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 誹謗中傷に対する特効薬はない。だが昨年4月、発信者を特定する裁判手続きを簡素化する改正プロバイダー責任制限法が成立するなど、被害者に寄り添う法改正も進められている(今年9月までには施行)。

 先の山口准教授は、大切なのは「他者への尊重」を忘れないことだと語り、こう続ける。

「まず知っておかなければいけないのは、ネットには様々なデマやフェイクが流れていて、誰でも騙される可能性があることです。その上で、相手を尊重し、自分がされて嫌なことは相手にもしないことが大切です。この当たり前の道徳心を育み、意識することの積み重ねが、誰にとっても心地よいネット社会を実現することになります」

 母親はこう言った。

「デマや臆測で誹謗中傷されることで、どれだけその人たちが傷つき苦しんでいるか。想像してみてください」

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年3月14日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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