「話がかみ合わない状況でした。ただ、ミスで起きることだとは考えられず、故意であろうととらえています」(市の担当者)
市が11月に、園に対して2020年度までの過払い額をまとめて伝えた際は、園長らは運営を継続する意向を示したという。そのため市は、返済方法の計画書の提出を求めていた。ところが12月に、その後の過払い分も加えた総額を伝えると、月末になって閉園すると連絡してきたという。
前出の市の担当者は言う。
「あまりに突然でしたので、市としても園児たちが移る保育園を急ピッチで探す必要があり、1月中旬に閉園についての保護者説明会を設定しました。また、園側には説明会より前に、保育士さんたちにていねいに説明するように強く伝えました」
その説明が、1月7日の出来事である。その後、Aさんら保育士が労働組合を通じて園側と団体交渉を行うまで、説明の場は設けられなかった。
園は市に対し、保育園の土地を売却するなどして不正受給分を返済する意向を示している。ただ、市によると、過去の不正受給では翌年度以降の委託費から過払い分を天引きする形で返済させていた。返済額を伝えた後、運営費不足を理由に閉園するというケースは極めて異例で、「もし返済が不可能だった場合の対応は未定」(市の別の担当者)という。
Aさんは憤る。
「教育に携わる人間が何年も不正を続け、発覚したとたん、経緯の説明もおわびの言葉もなく現場の保育士を切り捨てる。あまりにひどい話です。まだ勤務中で転職活動もできておらず、4月からは職がありません」
同園の園長は取材に、「記入した保育士の勤務時間数などにズレがあったことは認めます。保育士不足で人材会社を通じての募集などにお金がかかり、2年ほど前から経営が悪化していました。何とか園を続けたいと思い、市にもそうお願いしましたが、とてもじゃないですが返済する財源がありません。保育士にも申し訳ないと思っていますが、保育士不足の園は多いので、次の職場は見つかるだろうと思っています」
小さな子どもたちの教育現場で起きた現実である。(AERAdot.編集部・國府田英之)