small planet/Nakayama Racecourse/Chiba, Japan/2005(撮影:本城直季)
small planet/Nakayama Racecourse/Chiba, Japan/2005(撮影:本城直季)

■いつも撮影はものすごく効率が悪い

 アフリカの平原には俯瞰して撮れる場所がない。そのため、空撮にチャレンジした。

「ふつう、野生動物を撮るには超望遠レンズを使うと思うんです。でも、ぼくの作品は自然な感じに写る標準レンズを主に使っているので、すごく近づいて撮らなければならなかった。ところが、上空から動物が点のように見える状態でもヘリコプターが近づくと、逃げ出してしまった」

 さらに空撮特有の問題も大きくのしかかった。

「初めて空撮したときは、撮りたいものに1枚もピントが合っていなかったくらい難しい。あらかじめ、画面の真ん中にピントが合うように設定しておくんですが、カメラが上下に動くし、機体は旋回するしで、ピントの位置と、写したい場所がまったくかみ合わない」

 そんな悪条件が重なり、ケニアの取材では「30枚くらいしか、納得できるものは写っていなかった」。

 しかし、大変なのは空撮だけではない。「いつも、撮影はものすごく効率が悪くて」と漏らす。

 例えば、作品「small garden」。小学校の校庭での出来事を、四季を通じて近くのビルの上から写したものだが、「いくら待っても校庭に人が出てこない。そんな『空振り』がよくあります。だから、何十回も足を運んだ」と、振り返る。

「この写真は桜が咲いた校庭で少年野球をやっているんですけれど、そんな光景に出合うことなんて、めったになくて。毎年、桜の時期に行って、『ああ、今年は何もやってないな』と、シャッターを切らずに帰ってくる」

LIGHT HOUSE/Taito-ku, Tokyo/2011(撮影:本城直季)
LIGHT HOUSE/Taito-ku, Tokyo/2011(撮影:本城直季)

■20年以上撮り続けている作品も

 撮影には非常に手間がかかるため、「small garden」だけでなく、工業地帯を撮影した「industry」、人工ビーチとスキー場を写した「play room」など、長期間、撮影を続けているものがほとんどという。

 なかでも、もっとも息長く取り組んでいるのは夜の路地裏を写した「LIGHT HOUSE」で、撮影を始めてから20年以上にもなる。ちなみに、この作品は本城さんとしては珍しく、ジオラマふうではない。

「ただ、ぼくからすれば、『LIGHT HOUSE』も、ジオラマの作品も、自分の住んでいる場所を知りたい、という動機で撮影しているんです。ジオラマの作品がすごくフィーチャーされて、そちらに作品の主軸が傾いたというのが、実際のところ」

 3月19日から東京都写真美術館(目黒)で本城さん初の大規模展「(un)real utopia」が開催される。会場には試行錯誤を繰り返した学生時代の作品から、撮り下ろしの最新作が飾られる。世の中に膨大な類似作があふれるなか、なぜ、本城さんの作品がいまも輝きを失わないのか? その理由を実感できる。

アサヒカメラ・米倉昭仁)

【MEMO】本城直季写真展「(un)real utopia」
東京都写真美術館(東京・恵比寿) 3月19日~5月15日

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