赤坂オフィスは米国大使館そばのビルにある。年月を経た趣がある建物だが、きれいにリノベーションしてある(写真=写真部・松永卓也)
赤坂オフィスは米国大使館そばのビルにある。年月を経た趣がある建物だが、きれいにリノベーションしてある(写真=写真部・松永卓也)
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 短期集中連載「起業は巡る」。第3シーズンに登場するのは、新たな技術で日本の改革を目指す若者たち。第5回は、なんでもネットに繋いでIoTをプラグイン化する「ソラコム」代表取締役社長の玉川憲氏だ。AERA 2022年3月21日号の記事の2回目。

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 玉川がアマゾンの上司に相談すると「応援する」と背中を押してくれた。携帯クラウドのソラコムが成功すればAWSの顧客が増えることになる。Win-Winの関係になれるからだ。15年3月、3人はソラコムを創業した。まだプロダクトもない段階で、投資ファンドのWiLとInfinity Venture Partnersがそれぞれ7億円を出資した。

 全国どこでも、プラグインでIoTサービスが受けられるようにするためには、携帯電話会社のネットワークを借りる必要がある。玉川はドコモショップに行き「IoTの回線を売ってください」と頼むと、窓口の社員が怪訝(けげん)な顔をして管理職らしい人を呼びに行った。奥から出てきた管理職は玉川に言った。

「法人契約になりますので、社長を連れてきてください」

「あ、僕が社長です」

 こんな珍問答から始まったソラコムだが、わずか半年でNTTドコモと契約を結び、システムを組み上げてサービス開始にこぎ着けた。IoTは動画をやり取りするスマートフォンと比べると使用するデータ量が格段に少ない。通信会社から見れば回線の「隙間」を売って副収入が得られる感覚だ。玉川たちは海外の通信会社とも次々に契約を結び、140カ国でサービスが提供できる態勢を整えた。

 初期にソラコムを使って有名になったサービスが、ベンチャー企業チカクの「まごチャンネル」だ。祖父母の家のテレビにソラコムのSIMカードが入った小さなボックスを接続。子どもがスマホで孫の動画を撮ってアプリで送信すると、ボックスにランプが灯(とも)る。テレビのボタンを押すと動画が映し出され、子どものスマホには通知が届く。

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