たまがわ・けん/1976年生まれ、大阪府出身。46歳(写真=写真部・松永卓也)
たまがわ・けん/1976年生まれ、大阪府出身。46歳(写真=写真部・松永卓也)

■ポケトークで威力発揮

 16年5月には再びWiLなどから、総額約24億円の資金を調達した。国内の顧客は製造業や流通業などで2千社を超えていたが、この資金を元に玉川たちは一気に世界に打って出る。

 16年に北米、17年にはヨーロッパでサービスを始めた。ソラコムの威力を世間に知らしめたのが、ソースネクストの翻訳端末「ポケトーク」だ。AI(人工知能)翻訳で62言語に対応するポケットサイズの自動翻訳機だが、この端末が140カ国で使えるのは、ソラコムのクラウド通信を使っているからだ。

 事業は順調だったが、ミッションクリティカルな領域にはなかなか手が届かない。社会インフラとして認知してもらうにも時間がかかる。そこで玉川は大きな決断をする。17年、KDDIから約200億円の出資を受け入れて子会社になったのだ。

 狙いは当たった。KDDIの信用力と販売網を使うことで、ガス会社などインフラ大手との大型契約が決まった。省電力通信や次世代通信技術「5G」といった先端技術もいち早く取り入れられた。この結果、ソラコムの契約回線数は200万回線と買収前の25倍に増えた。

 かつてスタートアップを買収した後に経営陣が辞めて知見が流出した苦い経験を持つKDDIは、ソラコムの買収後も玉川たちに経営の独自性を認めていた。居心地は決して悪くない。

■引力圏から少し離れる

 しかし玉川は20年7月、KDDI社長の高橋誠を訪ね、こう切り出した。

「僕たちはグローバルプラットフォーマーになりたい。株式上場を検討させてください」

 スイングバイIPO(新規株式公開)。大手の傘下で成長した後にIPOを目指す、日本ではほとんど前例のない戦略だ。

 1984年4月に京セラに入社。その年の6月、通信事業に参入する稲盛和夫に連れられて第二電電(現KDDI)に移った高橋は、天才肌の経営者として知られる。200億円を得て子会社になりながら上場をしたいという玉川の身勝手な申し出に、高橋はニヤリと笑った。

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