おしゃれなカフェが席巻する今、ふと落ち着いた雰囲気の喫茶店を思い出す。都内の学生街。かつて友だちや恋人と語りあった「あの店」を訪ねてみた。
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記者が通った大学の周辺、東京・神保町界隈は、喫茶店の激戦区。選択肢が豊富でありがたかった。
大人びたいときは「ラドリオ」か「ミロンガ・ヌオーバ」。おしゃれに決めつつも腹いっぱい食べたければ「さぼうる2」でナポリタン(「いもや」の天丼並みのボリューム感)を。女の子と一緒なら「レモン」と使い分けた。
最近見た映画の話、面白かった本の話、誰と誰とがいい雰囲気だとか、サークル運営の愚痴……。尽きぬ話の舞台は喫茶店だった。
あるいは進めたくない話から逃げるべく、煙草(たばこ)を吸っては消し吸っては消ししたのも、今となっては喫茶店の良き思い出か。
学生運動華やかなりしころ、本郷の「ルオー」では、連日全学連が口角泡を飛ばして議論を続けたという。一方、安くてうまい料理を提供するために開店した池袋「セントポールの隣り」では、運動部員が勝利を誓って食べ続けた。
いまどきのカフェにはない熱と温もりが、学生街の喫茶店にはある。確かめに訪ねてみよう。
◆国立・ロージナ茶房
一橋大生の「故郷」 絵画と良心的ナポリタン
店内のあちこちに絵画が飾られている。
「1954年に、画家だったうちの親父がギャラリーカフェとして開店したんです」
と語るのは、2代目店主の伊藤丈衛さん。
一橋大学在学中の故・石原慎太郎氏も足しげく通った。
「親父は士官学校を出ているんですよ。そのため石原さんは親父を慕い、絵を習ったりしたそうです」
店名の「ロージナ」とは、ロシア語で故郷の意味。一橋大学のマルクス経済学の教授の提案が採用された。
学生のために当初から料理を安く提供してきた。一番人気のナポリタンは、昭和20年代はスパゲティを使わず安いうどんで代用していたという。巣立った学生にとってはまさに故郷の味だろう。
住所:東京都国立市中1-9-42/営業時間:11:00~21:00/定休日:年始のみ