「レコーディングして良かった。自分の人生に前向きになれました」と浩市さんは振り返る。「コロナで自分の道を諦めてしまった人もいる。田舎に帰っちまったスタッフも。それでも生きていかなければならない。(リスナーには)そんな思いを感じて欲しい」
彼の歌をオンエアするや、東京の風景が一変したように感じられた。一つ一つの歌詞がヒリヒリと切実で聞き逃せない。
浩市さんが作詞した一曲が「Life is too short」。
♪針を落とした お前の夜は/思ったよりも溝が深くて/俺の想いは70年代の/スプリングスティーンの様に/カッコだけ付けていた♪
♪歪んだレコードの様な俺の/針が飛んだって/お前はいつも笑っていた/笑っていてくれた/そんな風に思っていた♪
♪Life is too short/Life is too short/俺より1日1時間/居て欲しかった/Life is too short♪
隣にいた人の大切さに気づく、誰もが心に抱える喪失感を表すナイーブな詞だった。何度も聴くうち、父・三國連太郎さんと浩市さんの姿を感じた。音楽は不思議だ。一見ラブソングだが、人生のテーマ「父と息子」をも内包していた。
浩市さん主演最新作が『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』。僕はそこにも「父と息子」のイメージを強く持った。
(次号に続く)
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年3月25日号