ランディは、ギターのおかげでヒット曲が生まれていると信じていた。だから、そのギターを極めて厳重に管理していた。ツアー先のホテルではチェーンでトイレに巻き付けていたほどだ。ところが1977年、トロントのホテルでマネジャーが管理を怠った一瞬の隙に、何者かに盗まれてしまった。

 絶望の後、すぐにランディはギターを取り戻すための努力を尽くした。図書館に行き、電話帳を見て全米の楽器店や質屋に片っ端から電話をかけた。出演するラジオやテレビでも話し続けた。それでも、そのギターは見つからなかった。

「どれだけ探しても見つからなかった。多くの楽器店では、別のグレッチギターならあると言われた。だから、心の隙間を埋めるために、380本以上もグレッチを買ってしまったよ。その中には、もちろん400ドルより高かったものもある。どれも美しいギターだったけど、それでも盗まれたギターのような魔法を感じられなかったんだ」

 そしてランディは、そのギターを失ってからヒット曲が書けなくなった。

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 TAKESHIは2014年に代官山のギターショップ「ギタートレーダーズ東京」で、そのオレンジ色のギターを見つけた。同じ年の夏、お店のオーナーがテキサス州で開かれたビンテージギターの展示会で買い付けてきた逸品だった。一目見て、すぐに気に入ったという。

「まず見た目がカッコよかった。それと持った瞬間、このギターは俺よりも経験値が高いなと思いました。ギターが今までどれだけの音楽を聴いて、どれだけの音楽を放出してきたか、抱えた時にわかったんです」

 その日はグレッチギターを買いに行ったわけではなかったが、TAKESHIは80万円台のそのギターを即決で買って帰った。以来8年間、特別な相棒として、本当に大切に扱ってきた。

「周りに、自分もグレッチが欲しいと言うやつがいたけど、『買うのはいいけど、この音は出ないよ』と伝えていました。こいつだけが特別なんだと。あまり信じてもらえなかったけど、本当にそうなんだけどなって」

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決め手は「Holy Grail(聖杯)