そう語るTAKESHIは、完全に気持ちを切り替えた表情に見えた。

 TAKESHIの決心で、45年ぶりにランディの元に戻った魔法のギター。ランディは約半世紀ぶりに手にした感想を涙ながらに教えてくれた。

「思い出は美化されるというけれど、まったくそんなことはなかった。最初にギターをケースから出した時、こう話しかけたんだ。『お前も傷やひびが増えたな……。俺もしわくちゃになっちまったよ。でもお互い良い年を重ねて来たんだよな』ってね。もちろん弾いてみたら、感触もすごく良かった。TAKESHIが本当に大切に扱ってくれたからだよ」

 そして、TAKESHIへの感謝をこう続けた。

「TAKESHIが購入していなかったら、このギターが俺のもとに戻ってくることはなかったんだ。彼とは、英語で話したり、日本語で話したりすることはできないけど、それでも俺のことを尊重してくれているのが伝わってくる。立派で誠実な男だ。TAKESHIと俺は、同じ57年製グレッチと結婚したギターブラザーだと思っているんだよ」

 返還セレモニーから3日後の7月4日。ランディとTAKESHIは、ロックバー・六本木バウハウスの同じステージの上に立っていた。出番前の楽屋では、TAKESHIにギターの手ほどきをするランディの姿が見られた。1本のギターを愛した2人のアーティストは、言葉は通じなくても、友人になっていた。

六本木バウハウスの楽屋にて
六本木バウハウスの楽屋にて

 そしてステージではランディが、TAKESHIとのセッション2曲を含む全10曲を力強く歌い上げた。伝説のギタリストの衰えぬ姿に、満員の客席も尋常ではない熱狂に包まれた。

 ただ、そのライブでランディの手に、魔法のギターはなかった。

 せっかく返還されたのに――?

 その理由を聞くとランディは笑いながら答えた。

「あのギターはもう絶対にステージに持ってくるつもりはないんだ。曲を書いたり、レコーディングをしたりはするけど、それ以外では外にも出さない。カナダの俺の家でずっと保管するよ」

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