こうしてTAKESHIの愛器となったギターだが、20年に転機が訪れる。カナダ在中のランディのファンが、コロナ禍の自宅待機を利用し、インターネットでそのギターの捜索を始めたのだ。ネット上にあるグレッチギターの画像を見つけ出し、ランディが持っていたギターの画像と見比べる地道な作業だった。

 そして、TAKESHIが演奏するYouTubeの動画にたどり着いた。ランディのファンの間では、「Holy Grail(聖杯)」と言われている魔法のギター。木目にある特別な印は、間違いなくそのギターが「聖杯」であることを示していた。

特別なマークを見せるランディ
特別なマークを見せるランディ

 そのファンから連絡を受けたランディは、TAKESHIのYouTubeを見て涙が止まらなくなった。

「映し出された特別なマークを見て、すぐに俺のギターだとわかった。感情的になったよ。だって1977年からずっと見ていないんだ。本当に素晴らしい瞬間だった」

 そして、カナダ大使館を通じてTAKESHIに連絡を取り、返還セレモニーへの運びとなった。

 TAKESHIは7月1日の返還式まで、ひどく憂鬱(ゆううつ)な日々を過ごしたという。

 カナダ大使館から連絡を受けて、ランディとオンライン会議をしたとき、ランディのギターへの思いを聞いて、すぐに返すことを約束した。ランディが交換用に、同じ57年製のグレッチギターを探してくると言ってくれたのも後押しになった。そして、この世に30本しか作られていない57年製グレッチが、実際に見つかったことも奇跡だった。

 それでも、本当は交換したくなかった。TAKESHIもこの8年間、ずっとその特別なギターを大切にしてきたのだ。

「7月1日にいたるまでの1~2カ月間は本当に嫌でした。Zoom(オンライン会議)なんてやらなきゃ良かったって思った(笑)。ランディさんには会いたいし、ギターの話をしてみたいと思っていたけど、その日が来たらギターがなくなってしまうんですから」

次のページ
いただいたギターは俺が育てるギターに