戻ってきたギターを手に笑みを浮かべるランディ・バックマン
戻ってきたギターを手に笑みを浮かべるランディ・バックマン
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 魔法のギターが奇跡の物語を作った――。カナダの伝説的バンド、ゲス・フーの元ギタリスト、ランディ・バックマン(78)の45年前に盗まれたギターが、日本で見つかった。持ち主は、嵐やTOKIO、関ジャニ∞などへの楽曲提供で知られる日本のアーティストTAKESHIだった。数奇な運命をたどった1本のギターは、2人のアーティストをつないだ奇跡のギターとして話題になった。

【写真】ランディ・バックマンと共演するTAKESHI

「おかしな話に聞こえるかもしれないけど……」

 そう照れくさそうに前置きをして、ランディは、カナダ大使館で7月1日にあったギターの返還セレモニー後の不思議な体験について話してくれた。

「セレモニーの翌日、朝4時に起きてこのギターと会話をしたんだ。『久しぶりだな、古い友達。ずいぶん時間がかかってしまったな。また一緒に音楽を奏でようぜ』。そうやって2時間ほどギターを弾いていたら、急に自分でも知らないメロディーを弾き始めていたんだよ」

 どんなメロディーかを尋ねると、出来立ての新曲を聞かせてくれた。

「Lost and Found(失って、見つけた)」というタイトルの軽快なテンポのロックンロール。弾き終えるとランディは笑みを浮かべて、こう言った。

「The magic is back(魔法が戻ったんだ)」

◇ ◇ ◇

 ランディがそのギターを最初に手にしたのは、今から60年前の18歳の時だ。音楽店のショーウィンドーに並べられた400ドルのグレッチギター(1957年製・6120チェット・アトキンス)に釘付けになった。ランディの育った町の平均時給がまだ1ドルほどという時代。貧しかったランディは新聞配達、草刈り、洗車、ベビーシッターなどのアルバイトでお金をため、ようやくそのギターを手に入れた。

 そのとき幼なじみのニール・ヤングは別のグレッチを購入し、2人で宝物のようにそれぞれのギターをめでたという。

 その後は、そのギターでいくつもの曲を書いた。ゲス・フーの代表曲『American Woman』や、ゲス・フー脱退後のバンド、「バックマン・ターナー・オーヴァードライヴ」の『Takin’ Care of Business』などのヒットソングもそのギターで書かれ、レコーディングされた。

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ギターを失ってからヒット曲が書けなくなった