例えば、舌をみたり、おなかを触ったり、脈をとるのは、その人の本来あるべき生命の状態が、どのように歪んでいるか知るためです。その弁証によって分かった歪みのベクトルをその反対方向にその量だけ、押し戻すことを論治といいます。

 つまり、西洋医学が体を臓器別に分析して診ていくのに対して、東洋医学は体に注目するのではなく、生命を全体的にとらえて診ていくのです。

 禅を西洋世界に知らしめた鈴木大拙師の著書『東洋的一』(大東出版社)に次のような文章があります。

「西洋文化の思想的基調は、『二』に分かれたところである。東洋のはこの『二』のまだ分かれないところに在る」

「二」の示すところは、物事を分けて分析的にとらえるということでしょう。それに対して「一」は全体的です。文章はこう続きます。

「『二』の論理が立てられるとき、『一』は(中略)本来の姿で『二』の中に飛び出て、『二』に活を入れる。これで東洋文化の意義が世界的なものになるのである」

 私が東洋医学に着目したのは、大拙師風に言えば、「『西洋医学』に活を入れる」ためです。そしてその東洋医学は私に、人間をまるごととらえるホリスティック医学への道を開きました。

帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中

週刊朝日  2022年3月25日号

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