かつて実弥は弟妹を守るために鬼化した母を手にかけた時、混乱した玄弥から「人殺し!」と叫ばれたことがあった。玄弥の後悔はあの言葉に集約される。しかし、実弥が心に留めていたのは、玄弥の命を守るという誓いだけだった。大切な弟と会えなかったとしても、そばにいないことで弟に寂しい思いをさせたとしても、何としても守る、という意思だけが実弥をつき動かしていた。
■刀鍛冶の里編での玄弥の成長
だが、そんな兄の本心を玄弥は知ることができない。鬼という強大な敵と戦う兄。兄と同じ立場にいた強き炎柱・煉獄の訃報を聞いた時、玄弥の心中はどのようなものだっただろうか。実弥が玄弥を死なせたくないと思うのと同じように、玄弥は兄を守りたい。
<最期まで…戦いたいんだ…兄貴を…守る…死なせたくない…>(不死川玄弥/20巻・第170話「不動の柱」)
「呼吸」を使えず、日輪刀を「色変わり」させられない玄弥に、刀鍛冶たちは日輪刀と同じ材料から銃タイプの武具を用意していた。隊士の資質に恵まれなかった玄弥を弟子として迎えてくれた岩柱・悲鳴嶼(ひめじま)の助力もあり、玄弥は“強い意志”で数々の弱点を克服していく。
■「兄貴」と「兄ちゃん」
初登場時から刀鍛冶の里編の中盤以降まで、玄弥の見せる怒りっぽい様子は、「強い鬼狩り」として認められるための精いっぱいの背伸びの結果である。優しくて“弱い”玄弥は、自分を強く見せる必要があった。兄に会うために。兄に謝るために。
<兄貴 俺は柱になって兄貴に認められたかった そして“あの時”のことを 謝りたかった>(不死川玄弥/13巻・第114話「認められたかった」)
しかし、体は大きく成長したものの、本当の玄弥は、母を亡くし、弟妹を守れず、兄に置いていかれた、あの時の“子ども”の頃のままだ。「酷いこと言ってごめん 兄ちゃん」「ごめん兄ちゃん」「俺 才能なかったよ兄ちゃん」、と心の中で弱音をつぶやく時、玄弥は実弥に対して、“兄貴”ではなく、“兄ちゃん”というかつての呼び方がもれ出てしまう。
<あの…時…兄ちゃんを…責めて…ごめん…迷惑ばっかり…かけて…ごめん…>(不死川玄弥/21巻・第179話「兄を想い弟を想い」)