大きな理由として、日本では腎代替療法の中でも血液透析がまず先に保険診療として認められたことがあります。その後、腹膜透析が登場したころには、すでに血液透析専門のクリニックが全国にでき、多くの患者さんが通っていました。
腹膜透析は血液透析とはその方法が大きく異なります。自宅で患者さん自身がおこなう治療であるため、機器の使い方などをていねいに指導する必要があります。これに比べると近くのクリニックで血液透析を受けてもらうほうが、容易でした。また、腹膜透析の診療報酬も当時は高いと言えなかったため、取り組む医師がなかなか増えないまま、今に至るのです。
腎移植ですが、実際に手術をするのは主に大学病院などの基幹病院です。移植手術の症例は限られており、こうした病院に紹介をする側である腎不全専門の医師やスタッフでも、その具体的な段取りなどを十分に説明できないことがあります。また、献腎移植数も少なく、どうしても血液透析に比重が偏ってしまいます。
こうした現状を打破しようと厚生労働省は2018年ごろから、腎代替療法の正しい情報や治療をきちんと提供できる病院、クリニックに診療報酬を上乗せする仕組みを作ってきました。
国としてはこの仕組みにより、医療費のコストがかかる血液透析から他の治療法にシフトしていきたいという狙いもあります(現在、血液透析の診療報酬は低く抑えられていますが、1人の患者さんが30年、40年と続けていくと膨大になります)。
参考までに、診療報酬とは、保険診療の際に医療行為などの対価として医療保険から医療機関に支払われる料金のことです。すべての医療行為について厚生労働省により、それぞれ料金が決められています。病院も経営がうまくいかないと破綻しますので、診療報酬が高い治療には力を入れるようになります(その逆もしかりです)。
■腹膜透析に使われる遠隔モニタリング
2022年4月の診療報酬改定ではさらに、腎代替療法の正しい情報、治療をきちんと提供できる病院、クリニックに上乗せする流れが加速されます。腹膜透析に使われる遠隔モニタリングを実施した場合、新たに診療報酬がつき、在宅血液透析の導入や腎移植の治療に力を入れる病院に報酬が上乗せされる形になりました。