製作、監督、脚本のケネス・ブラナーの幼少期を投影した自伝的作品「ベルファスト」。本年度のアカデミー賞で作品賞、監督賞をはじめ、ジュディ・デンチの助演女優賞、キアラン・ハインズの助演男優賞など7部門にノミネートされた。
北アイルランドのベルファストで生まれ育ったバディ(ジュード・ヒル)は、充実した毎日を過ごす9歳の少年。イギリスに出稼ぎに行っている父(ジェイミー・ドーナン)、愛情深い母(カトリーナ・バルフ)、頼りになる兄(ルイス・マカスキー)、良き相談相手の祖母(ジュディ・デンチ)、ユーモラスな祖父(キアラン・ハインズ)ら善き家族に囲まれ、笑顔が溢れる日常は、彼にとって完璧な世界だった。
しかし1969年8月15日、バディの穏やかな世界は突然の暴動によって悪夢へと変わってしまう。プロテスタントの武装集団が、街のカトリック住民へ攻撃を始めたのだ。暴力と隣り合わせの日々の中、バディと家族たちは故郷を離れるか否かの決断を迫られる。
本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点)
■渡辺祥子(映画評論家)
評価:★★★★
好奇心いっぱいの孫がいる一家の幸福に乱入してくる宗教的対立の悲劇。黒と白の映像で描かれる1960年代後半の北アイルランドの苦悩を背景にした家族の幸せは、見る者の心を和ませながら暗い現実もまた考えさせる。
■大場正明(映画評論家)
評価:★★★★
西部劇の決闘と現実の緊迫した対立、万引きと略奪など、少年の目を通して様々な形で日常と非日常が絡み合っていく。感情豊かな母親役のバルフや見事に最後を締める祖母役のデンチを筆頭に、キャストがみな素晴らしい。
■LiLiCo(映画コメンテーター)
評価:★★★
みんなにとって故郷は特別な場所。強く生きたこの家族はずっと気になります。しかし100%モノクロでも良かったかも。見ている人の脳の中で彩られます。やっぱりジュディ・デンチ、すべてを食っちゃうね。昔から別格!
■わたなべりんたろう(映画ライター)
評価:★★★★
手練れの職人の匠の映画製作術が存分に発揮されている。監督自身の子ども時代の自伝的内容なので生き生きしているうえに、宗教対立の描写も存分に描いている。観た後の余韻は最近の映画の中でも傑出している。
(構成/長沢明[+code])
※週刊朝日 2022年4月1日号