核兵器の使用をちらつかせるプーチン大統領は、欧米を脅しながらウクライナ侵攻を進めている。被爆国として日本はどう対応するべきか。AERA 2022年3月28日号から。
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今回のウクライナ侵攻を受けて、安倍晋三元首相や自民党、日本維新の会から、NATOのような米国との「核共有」を日本でも議論するよう求める声が相次いだ。元外務省軍縮・不拡散専門官の西田充(みちる)・長崎大教授は「NATOモデルのうち、核兵器そのもののハード面における『共有』を、米国と1対1の関係にある日本に導入するのは安全保障上意味がないし、むしろ有害」と語る。
■岸田首相は核共有否定
岸田文雄首相も「唯一の戦争被爆国、とりわけ被爆地広島出身の首相として核による威嚇も使用もあってはならない」と強調し、「政府において核共有は認めない。議論は行わない」と否定している。これを受けて、岸田首相の遠縁にあたる広島被爆者のサーロー節子さん(90)は、岸田首相に手紙を送った。
「今こそ、核兵器の使用や威嚇は絶対に許されないということを声を大にして上げ、世界中に向けて発信してください。今世界は、広島からの声を必要としています。『核共有』というのは、日本が米国による核兵器の作戦に加わるということにほかなりません。そのようなことが、被爆国日本にどうして許されるものでしょうか」
■「ブーメランのように」
国際法が専門の阿部浩己(こうき)・明治学院大教授は「そもそも核兵器の使用・威嚇は国際人権法に違反し(19年の自由権規約委員会一般的意見36)、今回のロシアによるウクライナ侵攻は1974年の国連総会決議(29/3314)が明記する侵略行為にあたる」と断じる。
そのうえで、プーチン大統領が今回のウクライナでの武力行使の理由として、(1)ロシアに対するNATOの差し迫った脅威(2)ウクライナ東部ドンバスの二つの「共和国」からロシアに対する国連憲章51条に基づく援助要請(3)この8年間のウクライナの政権による集団殺害(ジェノサイド)からの保護を掲げるだけでなく、米国が03年にイラクに侵攻して国際秩序を乱し国際法を無視してきたことなどにも触れていることから、「米欧諸国による度重なる国際法秩序を揺るがす行為が今、ブーメランのように返ってきているとも言える」と指摘する。