
そんな状況だったから、SWSが解散した後はモメた選手たちのことを気にしたことなんてなかった。当時は俺についてきてWARで一緒にやっていた若い選手にカッコつけさせてやらなきゃいけないし、なにより全日本プロレスを辞めた俺自身も、全日本の選手に笑われるようなことにならないよう、自分のことで精一杯だったしね。だから、SWSで袂(たもと)を別った選手とは二度と会うことはないだろうと思っていたんだ。
ところが、昨年行われたジャイアント馬場さんの追善興行で、杖をついた俺に、糖尿病の影響で右足を切断して義足になった谷津が気さくに話しかけてきたんだ。お互いにからだが不自由になってきて、思いやる気持ちが出てきたんじゃないかな(笑)。
歳を重ねるのも悪いことじゃないね。それからちょこちょこ話して、谷津はなんのわだかまりも持っていないことが伝わってきた。以前から「谷津さんからは天龍さんの悪口を聞いたことはない」ということを周りに言われていたんだけど、そのことが30年かかってようやくわかったよ。
それからの谷津を見ていると、とにかく元気で前向きで明るいよね。自分のからだがあんなになっても、やりたいことを照れずにやってやるという気骨があって、一緒に戦っていたころとずいぶん印象が変わったんだ。そう思うと同時に、俺の方がちっちゃいことにこだわって、距離を取っていたことにも気づいた。
それで、ファンが望むんだったら、谷津にいろいろなことを聞いてみたいという気持ちになって、トークバトルのオファーを出したってところだ。谷津はそのオファーも二つ返事でOKしてくれて「光栄です」とまで言ってくれた! もともとレスリングからプロレスに来て、デビュー当時から物怖じをしないことで有名だったけど、結局、谷津嘉章はずーっと谷津嘉章のままだったということだね。
ほかのSWSの選手? それに関してはまったく接点がないし気にもならないね! ただ、桜田一男(ケンドー・ナガサキ)だけは相撲の同期だし、彼が小田原で魚の卸売業をやっていると聞いて、俺がやっていた寿司屋で、桜田のところから仕入れをしていたこともあったけど、それぐらいだなぁ。