オランダ軒の「しおチャーシューメン」は一杯1200円。生姜の香りと旨味が絶妙だ(筆者撮影)
オランダ軒の「しおチャーシューメン」は一杯1200円。生姜の香りと旨味が絶妙だ(筆者撮影)
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 日本に数多くあるラーメン店の中でも、屈指の名店と呼ばれる店がある。そんな名店と、名店店主が愛する一杯を紹介する本連載。岩槻でオリジナリティーあふれる生姜醤油ラーメンを提供する店主が愛するラーメンは、埼玉で60年続く老舗町中華の3代目が作った渾身の一杯だった。

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■いつか飽きられてしまうのでは… 人気店が抱える「恐怖」

 東武アーバンパークライン(野田線)沿いの東岩槻駅から徒歩5分のところに行列の絶えない超人気店がある。「オランダ軒」(移転準備のため現在休業中)だ。新潟のご当地ラーメンである生姜醤油ラーメンをベースとしながら、生姜のキレと醤油のうまさが際立つパンチのある一杯を提供している。

「オランダ軒」は創業以来常に行列ができていて、スランプというスランプがない。店主の山本靖さんは、「いつか飽きられてしまうのでは」と日々怖いという。

 しかし、山本さんにはしっかりとしたポリシーがある。まずは盛り付けをきれいにすることだ。SNSで拡散される際の写真映えを意識し、いくら忙しくても丁寧に盛り付けをする。それから、何杯かをまとめて作るのではなく、一杯一杯を丁寧に作ることだ。ラーメンの仕込みから調理までをほとんど一人で行っているが、その仕事の丁寧さには目をみはる。

「オランダ軒」店主の山本靖さん。ハンバーガー店での経験を存分に詰め込んだラーメンを提供している(筆者撮影)
「オランダ軒」店主の山本靖さん。ハンバーガー店での経験を存分に詰め込んだラーメンを提供している(筆者撮影)

「例えば店にお客で来ていたとして、自分が食べるラーメンが10杯ロットとか12杯ロット(一気にまとめて作ること)の最後の一杯になるのは、自分だったらとても嫌だなと思うんです。あまりにもまとめて作ると麺も伸びてしまいますし、盛り付けもきれいにできません。待ち時間が長くなってしまうことは申し訳ないと思いつつも、一杯一杯丁寧に作ることをモットーにしています」(山本店主)

 スープに使う豚骨は、毎日おので割ってから寸胴(ずんどう)に入れている。最初からハーフカットされているものは使わない。チャーシューは長岡の昔ながらの製法で作っている。このチャーシューの煮汁がタレとなり、ラーメンの味の芯となっている。

オランダ軒/3月27日現在、移転準備のため休業中。新店舗についてや営業情報は店主のツイッター(@punpui93)にて/筆者撮影
オランダ軒/3月27日現在、移転準備のため休業中。新店舗についてや営業情報は店主のツイッター(@punpui93)にて/筆者撮影

 細かい部分に手間をかけ、オンリーワンの一杯を作り上げる。他のラーメンには目もくれず、生姜醤油ラーメンだけを極めていく。生姜醤油ラーメン専門の職人として、他には負けないものを作り続けていきたいという。

「このラーメンだからこそ店が続いていると思っています。うちのラーメンは子どもからおじいちゃんおばあちゃんまで食べられる一杯。温故知新をテーマに、昔の良さを守りながら、オリジナリティーをどんどん出していきたいと思っています」(山本店主)

生姜のキレたっぷり(筆者撮影)
生姜のキレたっぷり(筆者撮影)

 そんな山本店主の愛するお店は、埼玉県加須市で60年続く老舗の町中華だ。この店の3代目店主が山本店主と出会ったことがきっかけで、町中華のラーメンが人気の一杯に成長していった。

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高級中華から町中華へ