「映画の神さまがいた」と浩市さん。「もう一回撮りたいと監督が言ったんです。10分後にやろうと答えたら、いや明日もう一度と。光の加減は後処理でできるのに。翌朝、同時刻にスタートした。できあがった映画を見て監督のビジョンがわかった。それが少し白みかけた空だった。2日目は断然いい絵が撮れた。道路から起き上がったら何台ものクルマが猛スピードで通過した。ラストも手の甲にソースがついた。こんなの狙って撮れるわけじゃない。これは映画の神さまだって」
自らの半生を独白するシーンで主人公は息子を語る。ハンバーグを一度もうまいと言ってくれなかった息子。家を出たきり、行方知れずの息子。
先週も触れたが、ここにも永遠のテーマ「父と息子」が出てくる。
これは浩市さんの映画だと思ってぐっときた。ナイーブな「少年のはにかみ」を持っている浩市さんが「息子」になり、その横に「父」三國連太郎さんが見えた。
作品『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』は主人公に微かな希望を与えて終わるが、その先に息子と再会している川上次郎の姿が浮かんだ。
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2022年4月1日号