TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、本誌連載「RADIO PA PA」。前回に引き続き、俳優・佐藤浩市さんについて。
【写真】佐藤浩市さんの最新作『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』
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『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』は佐藤浩市の最新作。メガホンは三島有紀子がとった。
2021年7月早朝、午前4時16分、ヨーイ・スタート! 800メートルのワンカットの一発勝負。11分40秒後に目指す空の明かりになる。生まれたのは奇跡の叙情詩。
「信号の色のタイミングも計算しました。でも撮影はあくまで生モノ。佐藤浩市さんが全てアジャストしてくださったんです」と三島監督は言う。
圧巻の11分40秒だった。11分に人生の全てが詰まっていた。映画は小説にも詩にも、音楽にもなると知った。
「最後にあの人に食べさせたい」と、浩市さん演じる白いコックコートを着たシェフ川上次郎がデミグラスハンバーグをもって深夜、店を出る。老女は別の場所に引き取られており、途中からあてどなく街を歩くことに……。
大阪には幾筋もの川が流れ、橋も多い。「男の生き様を通してこの街を見せたかった。元々ごく私的な物語から始まった作品です。出入橋に家族ぐるみの付き合いをしていた洋食屋さんがあり、90歳になる母がそこのハンバーグが食べたいと。でも店はがらんどうだった。緊急事態宣言下に閉店との貼り紙に胸が締め付けられた。幼馴染の2代目は今もデミグラスソースを作り続けている。ソースを絶やすと全てがなくなってしまうからって。その言葉に微かな光を感じたんです」(三島監督)
「撮影は最初の250メートルが辛かった。セリフもない。でも、携帯を見るような逃げることはしたくなかった」と浩市さんが振り返った。そこをしのいで足を緩め、自分の半生を口にする。生まれた場所、生まれた日、初恋、修業時代、妻とのなれそめとその死。
「そしてもう何もなくなったと、大の字に道路に横たわる。死んでもいいかなって。で、何やってるんだ俺はと立ち上がる。こんなこと、コロナでは多いんじゃないだろうか。デミグラスソースを舐め、明日もかき混ぜなきゃと。そこで空が白みかける。30代、40代なら明けきった空なんだろう。でも主人公の男には、ぼんやり白みかけた空なんです。(その色に)少しの希望を託そうと監督が意図し、その逆算から午前4時16分のスタートになった」