
福島県沖を震源とする震度6強の地震で、走行中の東北新幹線が脱線した。逸脱防止装置が働いて大惨事にはならなかったが、課題も浮き彫りになった。AERA 2022年4月4日号の記事を紹介する。
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ジグザグを描くように車両が止まっている。3月16日深夜に福島・宮城両県を襲った最大震度6強の地震で、宮城県内を走行中の東京発仙台行き東北新幹線「やまびこ223号」の全17両中16両がレールから外れた。
「揺れが支配的な要素を持ったと思います」
脱線の原因をそう分析するのは、金沢工業大学客員教授の永瀬和彦氏(鉄道システム工学)だ。永瀬氏がテレビ画像を見たところ、列車後方のスラブ(レールを支えるコンクリート板)に白い脱線痕がなかった。
■「逸脱防止装置」が奏功
一方、先頭車の直下のスラブには、停止後に脱線して車輪が横方向へ移動した痕跡が認められるという。
「最初の震度5弱の揺れで緊急ブレーキが作動して停車し、2分後にあった第2波の震度6強の強い横揺れで脱線したと考えられます」(永瀬氏)
永瀬氏によれば、JR東日本は2004年の新潟県中越地震で走行中の上越新幹線が脱線したのを受け、地震時の脱線対策に本格的に着手したという。
「その一つが、脱線しても車両をレールから大きく逸脱させない『逸脱防止装置』の導入です」
新幹線はレールの上に車両がのっているだけなので、「脱線そのものを防ぐことはかなり難しい」(JR東日本)という。そこで、脱線による大事故を防ぐために考えられたのが逸脱防止装置。新幹線の車輪付近に取り付けられた「L字形」の装置のことをいう。その装置が脱線時にレールにひっかかることで、車輪が線路から大きく外れるのを防ぐ仕組み。JR東は08年までに全ての新幹線車両に装置を導入した。
だが今回、一部の車両が大きく傾いた。永瀬氏は言う。
「17両中16両が脱線したのに、横転しなかったのは逸脱防止対策が功を奏したと思います。ただ、報道写真を見る限り1両および12両目が大きく傾き、逸脱防止装置が機能していません。今後、検討の余地があります」
新幹線は、1964年の開業以来、安全安定輸送の確保を使命とした。逸脱防止装置のほかにも、JR各社は高架橋の耐震補強や早期地震検知システムの導入など対策を進めてきた。