■60年代の古いシステム
東京大学名誉教授の曽根悟氏(鉄道工学)も最初の揺れで新幹線が急停止し、その後の揺れで脱線したため大惨事には至らなかったと評する。そのうえで、今後の課題に「列車の止め方」があると指摘する。
「新幹線は地震の初期微動を震源に近い海底や海岸で感知すると、変電所を通じて必要な区間を停電させ、大きな揺れが来る前に非常ブレーキで列車を減速させる仕組みになっています。しかし、これは新幹線が開業した60年代の技術。停電させることには弊害が数多くあります」
今回、脱線した新幹線は乗客を乗せたまま4時間半近くにわたり現場に停車した。その間、車内の照明は非常灯だけで空調はストップしたままだった。曽根氏は言う。
「停電させれば当然そうなります。さらに、停電させて新幹線を止めればトンネル内で止まる可能性が高くなります。(72年に開業した)山陽新幹線より後の路線は、区間の半分か3分の2近くがトンネルです。長いトンネル内で止まると、救援バスまで避難するのも困難。車内で火災が起きた場合もトンネル内で停止すると大惨事につながる恐れが大です」
曽根氏によれば、今は停電させず新幹線を止める方法はいくらでもある。例えば日本の技術でつくられた台湾新幹線は、無線などで「止まれ」という信号を列車に送って停車させているという。「新幹線内で火災が起きたり強い地震を受けたりした時、止める場所を最初から指示したり、急停車後に送電したままならトンネルの出口まで低速で移動することはできます」
続発する震災に対策はまったなしだ。(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年4月4日号
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