手嶋:ウクライナのトップは国民が自由に選んだ指導者に委ねられるべきです。中立条約と停戦にあたって焦点になるのは占領地の扱いでしょう。ここは暫定的な非武装地帯とするしかありません。ドネツク・ルガンスクの扱いは継続協議とし、それ以外にロシアが占領した地域からは兵を引かせる。従来のロシアなら占領地を放棄するはずはありませんが、キエフが陥落せず、ロシア兵の死者が増え、経済制裁の効果も出てくれば、プーチンも妥協せざるを得なくなります。
東郷:では、その仲介を誰がやるか。トルコやイスラエルなどが挙がっていますが、私は仲介できるのは日本だと思う。日本はロシアと対面して苦しんできた経験が長く、それはアメリカの比ではありません。だからこそプーチンの論理を理解できます。好きか嫌いか、善か悪かとは別の次元で、戦争をやめさせるには、戦っている人の論理を理解しなくてはいけない。そして、交渉できる人間がいるかということです。私はそれは安倍晋三元首相であると思う。まずアメリカに信用があることが重要です。また、プーチンとも27回の首脳会談を重ねてきました。安倍氏は、アメリカとプーチン双方に信用があります。
まずワシントンに行って、バイデンに中立条約の保証国になること、ゼレンスキーを説得することを認めさせる。次はモスクワに行きプーチンに会って、「地盤はできた」と伝える。「中立条約に異存はないだろう。それで話が終わらないのはわかるが、まずは第一歩を」と。中立条約を結んだうえで停戦につなげていく。非常に難しい交渉ですが、できるはずです。
手嶋:確かに安倍氏はトランプという国際政局の「トリックスター」の懐に飛び込んで、対話のチャンネルを築いた稀な政治家です。トランプ時代には、欧州の同盟国との関係がズタズタとなり、一方で中ロは連携を強めていきました。にもかかわらず、東アジアに戦略的な真空が生じなかったのは、安倍氏の存在が大きかったと欧米の安全保障専門家も評価しています。
日本も仲介役を果たす余地があるなら、挑んでみるべきだと私も考えています。東郷さんも当事者のおひとりでしたが、日本は大変厳しい対ソ、対ロ交渉に長く取り組んできました。ここはロシア外交の内在的な論理を知り抜いた日本外交の出番だと、私は開戦当初から主張しています。
(構成/編集部・川口穣)
※AERA 2022年4月4日号より抜粋