ロシアによるウクライナ侵攻で停戦のための課題は何か。日本はどう外交すべきか。アエラ3月28日号に続き、元外務省欧亜局長の東郷和彦さんと、外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが語り合った。AERA 2022年4月4日号の記事から紹介(前後編の前編)。
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東郷:停戦を実現するには、ロシアが絶対に譲れないと言っている部分と、ウクライナが何としても守りたいものの折り合いを付けることが必要です。ロシアは、ウクライナの「中立化」と「非武装化」を求めている。一方、ウクライナの側が放棄できないのは国家の独立と統一性の維持でしょう。
手嶋:ウクライナにとって完全な非武装化、つまり武装解除は、将来ロシアにのみ込まれることを意味し、断じて受け入れられないはずです。ただ、中立化をキーワードに、平行線に見える両者の主張を「交わった」とする余地はあると思います。中立とは「非同盟」です。NATOに加盟していないウクライナが、どこの陣営とも軍事同盟を結んでいないのは事実です。その現実を「中立化」と言い表して交渉の糸口とすることは可能です。
過去の外交交渉をひもといても、平行線を「交わった」として乗り切った例はいくつもあります。1971年の米中極秘会談では、焦点の台湾問題で「米国は両岸の中国人がそれぞれに中国は一つであり、台湾は中国の一部であると主張していることを事実として知り置いている」と言い表し難局を乗り切った。中国にとって台湾は一省であり、台湾も大陸に反攻し統一するのが建前、だから「一つの中国」でした。上海コミュニケとなった文案はまさしく芸術品でした。
東郷:おっしゃる通りです。ウクライナが中立条約を結んでも、本質的に失うものはありません。中立条約だけなら迅速に合意できるはずです。非武装化は脇においてでも、まず中立条約を結ぶ。2国間でなく、アメリカやNATOを含む多数国家の保証を得る。いつ破られるかわからない不信感は双方に残りますが、第一関門は突破できます。
■暫定的な非武装地帯
一方、全面非武装化は受け入れられない。ならば何が落としどころか。当初私は、ゼレンスキーは退陣する必要があると考えていました。侵攻にいたった経緯を考えれば、プーチンはゼレンスキーを信用しません。
56年のハンガリー動乱や68年のプラハの春の際は、ソ連を中心としたワルシャワ条約機構が軍事介入し、時の指導者が退陣しました。それでソ連は兵を引きますが、それぞれ後継は、必ずしもソ連に支配されない統治を行いました。しかし、その後ゼレンスキーの戦争指導力が上がってきました……。