「日本だけではなくて、世界でも労働分配率は低下傾向にあります。それは機械が労働を担う割合が増えたからと考えられますが、生産性があがる一方で、賃金のほうは上がってこなかった。各企業で人件費そのものが上がっているかも注目する必要がある。健全な賃上げのあり方としては、まずは労働生産性を上げ、そして賃金を上げていくというサイクルを動かしていくことです。個別企業でいかにそれを実現するかが問われている」
そこで編集部では東京商工リサーチの協力のもと、10業種(自動車、機械、小売、金融、卸売、電気機器、通信、化学、食品、サービス)における売上高の上位20社の大企業を対象に、従業員一人がいくらの付加価値を生み出しているのか、つまり、一人当たりの労働生産性(以下、労働生産性)はいくらなのか、そして、労働分配率はいくつなのか、一人当たりの人件費(以下、人件費)は増えているのか、調査を行った。数字は21年3月期までの単体決算を扱っている。
労働分配率は、付加価値額に占める人件費の割合で表している。付加価値額は、営業利益、人件費、研究開発費、租税公課、減価償却費の合計となっている。人件費は役員賞与、役員退職金、役員報酬、給料手当、賞与引当金繰入額、退職金、退職給付引当金繰入額、法定福利費、福利厚生費、雑給、労務費の合計とした。
各業種で結果をまとめたのが表だ。前年より労働生産性が伸び、かつ、人件費を増加させ、良いサイクルを実現している企業には青色をつけた。東京エレクトロンやライフコーポレーション、SBI証券などがこのグループに入る。
労働生産性が伸びているにもかかわらず、人件費が上がっていない企業、つまり人に対する投資に回っていないと見られる企業は緑色にした。伊藤忠商事やプリマハムなどがここに入った。
労働生産性が減りながらも人件費が増えている企業は黄色にした。経営が苦しくても人件費を増やす、もしくは減らさない企業ともいえるが、今後、経営が改善されなければ人件費が圧縮される可能性がある。トヨタ自動車や川崎重工業などがあった。