西島秀俊
西島秀俊
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 第94回アカデミー賞で日本映画史上初となる作品賞や監督賞など計4部門にノミネートされ、国際長編映画賞を受賞した「ドライブ・マイ・カー」。主演を務めた西島秀俊(51)は現地で行われた授賞式に参加し、鮮烈なハリウッドデビューを果たした。

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 村上春樹氏の短編小説を基に、世界的に注目されていた映画監督・濱口竜介氏が大胆に映画化した本作。西島演じる主人公の舞台俳優兼演出家が妻を亡くし、失意のなかで出会った専属ドライバーがきっかけとなり、妻が残した秘密と向き合っていくというストーリーだが、ほぼ全編出ずっぱりの西島に対する評価は日本でもかなり高い。映画雑誌の編集者はこう分析する。

「3時間弱の大作ということもあり、最初の日本公開時はややハードルの高い文芸作品というイメージでしたが、当初から映画愛好家からの評価はすこぶる高い作品でした。商業映画2作目にして独創的な作風を見せつけた滝口監督はもちろん、西島さんがみせる感情の機微、淡々とした演技がとにかくすごい。突然いなくなった妻への喪失感や、残された秘密に対する向き合い方など、緻密に構成された脚本を西島さんがさらに緻密に演じ切っています」

 西島など役者陣の好演と監督の手腕が光り、本作品は「原作を越えた」と評価されるほどだ。映画ライターはこう話す。

「村上春樹さんの作品は喪失感を抱えた主人公がよく出てきますが、いざ映像化するとそのアンニュイさが伝わりづらい。そのため業界内では“最も映像化が困難な小説家”とも言われていますが、『ドライブ・マイ・カー』では西島さんがそのハードルを飄々と超えて、原作よりもさらに味わいのある映像作品として昇華させている。もともと西島さんは無言の芝居がとにかくうまく、たたずまいや表情だけで、感情の機微を上手に表現することができる俳優。西島さんが演じたからこそ、この作品が世界にも認められたと言っても過言ではないでしょう」

 50歳を越えて、ようやく名実ともに日本を代表する俳優となった西島だが、ここまでは決して順風満帆なキャリアではなかった。

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