もはや郵便は僕の副業であった。郵便友の会の会長に任命されていたので他校との交流に出掛けたり、一方個人的にはハリウッドスターにファンレターを送り続けた。エリザベス・テーラーは僕の切手蒐集のためにと言って海外からのファンレターに貼られた切手を封筒からはがして沢山送ってくれたり、自分の近況を長文で語ってくれたりした。そしてその手紙やブロマイド、切手などが郵便友の会の全国紙に写真入りで紹介された。他にクラーク・ゲーブル、タイロン・パワー、エスター・ウィリアムズからもサイン入りのブロマイドが届いた。とにかく全身郵便屋さんである。郵便の合間に油絵を描く学校生活は、ある意味で学校のPRにもなった。もう僕の将来はほぼ100%確定していた。郵便は僕の個人的現実を満足すると同時に社会的現実に於いても何らかの貢献をしているようにも思えた。郵便屋さんは人と人の愛の交流を結ぶキューピッドの役割を果たしていた。また遠く離れた海外との文化交流の橋渡しをする外交的メッセンジャーでもあった。とかなんとか社会的理由をつけて、この郵便屋さんの仕事に僕はプライドのようなものを抱いて職業としても第一級であると自負さえ抱いていた。
ところが、学校側に突然、「郵便屋などになるな、ぜひ美大に進学しろ」というかなり強硬な意見というか要望を突きつけられ、ウムを言わせない状況に僕は追いつめられた。例によって他力に押された僕は学校側の意志に従わざるを得なくなって嫌々東京の美大を受験することになった。ところが状況は二転、三転していよいよ明日が受験という前日に上京していた美術の先生から受験を止めて郷里に帰ってくれという要求が突きつけられた。郵便屋を止めて美大へ行けと言ったかと思うと今度は受験を止めろだ。僕も優柔不断だけれど学校はもっと優柔不断だ。こうして理不尽な運命にかきまわされた僕は、郵便屋にも美大生にもなれないまま世間に放り出されてしまった。