郵便屋になりたいというのは運命に従ったのではなく、むしろ運命に逆らった意志だったのかも知れない。それが本来の運命路線に戻されただけの話だったのか。僕の運命の女神が郵便屋にも美大生にも反撥したのかも知れない。そして本来の運命に従わせるために印刷所に僕を就職させ、その後商業デザイナーへの道を用意して、45歳の時に画家に転向させた。今から思うとあの郵便屋さんへの10代の夢は一体何だったのだろう。今思っても謎の10代であるが、永遠の子供でいたかったのかも知れない。「今も手紙を書きますか」という鮎川さんの質問に対して、もう郵便屋じゃないからね、としか答えられない。

横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰

週刊朝日  2022年4月8日号

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