卒業後の進路も多様で、在学中に起業する学生も増えている京都大学。今回は京大で「本質思考」を養ったと話す「taliki 代表取締役CEO 中村多伽さん(総合人間学部)。
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「大学時代に得られたのは、物事を本質から考える視点。知的好奇心が豊かな京大生と議論を重ねることで、自分の狭い解釈を超え、世界を眺められるようになりました」
社会課題に取り組む起業家を支援するtaliki(タリキ=京都市中京区)の代表取締役CEO、中村多伽(たか)さん(27)は大学時代をこう振り返る。
総合人間学部1年のとき、カンボジアに小学校を建設するプロジェクトに参加した。「『国際協力』の響きが良く、就活に役立ちそう」という軽い気持ちからだったという。現地調査に参加して、家が貧しく進学できない子どもが多い現実を知り、「社会構造の問題に目を向ける必要がある」と感じた。
大学4年のときに休学し、ニューヨークのビジネススクールに1年間留学。報道局でのインターンを通じ、貧困や社会格差の問題には国連や政府の手が届いていない領域があることを痛感した。「それならば、社会課題に取り組むプレーヤーを増やそう」と帰国後に学生団体を作り、2017年秋にtalikiを立ち上げた。
30歳以下の若者たちを対象とした創業支援プログラムを提供し、販路の拡大も手助けする。これまでに支援した事業は190近く。その中の一つ、「V-cook(ブイクック)」は誰もがヴィーガンを簡単に始められることを目指すレシピ情報サイトで、月あたりの利用者は18万人を超す。ほかにも、起業家の思いを社会に届けるため、自社メディア「taliki.org」を運営している。
目指す地点について、中村さんはこう語る。
「社会課題を完全になくすことは難しいかもしれませんが、解決のスピードを速めることはできます。社会の中で誰かが傷ついているときに、少しでも早く回復できるような仕組みを整えたい」
(本誌・松岡瑛理)
※週刊朝日 2022年4月8日号