ウクライナに侵攻したロシア軍の民間人攻撃が止まらない。背景には何があるのか、過去の紛争や戦争との共通点や違いはあるのか。AERA 2022年4月11日号は、国際政治に詳しい慶應義塾大学の廣瀬陽子教授に聞いた。
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ロシア軍が包囲するウクライナ南東部のマリウポリでは、死者が5千人に上ると見られている。そして約17万人が水も暖房もないなかで取り残されているという。2月24日の侵攻開始当初は、民間人を標的にした行為は見られなかった。
■市民の心を折る効果
「背景にプーチンの誤算があります。2014年のクリミア併合と同様、侵攻すればウクライナ人は喜んでロシアを受け入れると考えていた。実際にクリミア併合では半島の先住少数民族クリミア・タタール人への弾圧などはあったものの、少なくとも民間人の血は流れませんでした。しかし、ウクライナ市民の激しい反ロ感情と抵抗を目の当たりにし、3月1日ごろから『邪魔な人間を排除するため』に戦闘方法を変え、無差別虐殺の領域に入ってしまった。ロシア軍の装甲車両の前に立ちはだかったり、火炎瓶を投げたりしていた市民の心を折る効果も大きいと考えたのでしょう」
ロシアのチェチェン共和国で起きた第2次チェチェン紛争(1999年)や、シリア介入(2015年)でも、ロシア軍は多数の民間人を殺傷した。
「プーチンはチェチェンに攻め込むために(攻撃を自演する)『偽旗作戦』としてモスクワのアパート連続爆破事件を起こし、約300人が犠牲になりました。『チェチェンがやった』として侵攻した手法は、今回の構図にも重なります」
「一方で、共通しないのは『相手の近接性』。ジョージアとの戦争(08年)でも民間人は標的になりましたが、ロシア人はジョージアやチェチェンなどカフカス地方について『野蛮人』だとさげすんでいるところがありますし、遠く中東のシリアに至ってはほとんど人と思っていない可能性すらありました。でも今回、プーチン自身が『一つの民族』とするウクライナ人を容赦なく殺している。そこに事態の異常性をより強く感じます」