◆トラウマという猛獣を手なずける
──深川栄洋監督の指導で印象的だった言葉は?
「君は見せる笑顔をしている。つい思わず笑顔になっちゃう顔っていうのがあるはずなんだよ」って。笑顔ってほんと難しいなって初めて気づいて、練習しました。
監督の指導は、じわじわ来るんですよね。「健人くんのお芝居の癖はこうでこうでこうです」って共演者の前であぶりだされるので、それがもうつらくて(笑)。でも、自分のお芝居の弱点を全部見つけていただいて、ほんとに感謝してます。
監督はものすごく厳しくてなかなかOKが出ない。そんな中で「はいカットー」って近寄ってきて、「最高でした」って言われると、「気持ちいぃ……」って思っちゃうんです。監督にドMにされたのは間違いないです。
今回、自分に素直になろうと思って、今まで経験した悲しいことやトラウマを全部監督に話しました。学生時代のことや、過去にこういう人と対峙があった、このときにだいぶ傷ついた、とか。
それを話さないとこの監督とつながれないって思ったのかな。僕はけっこう壁を作っちゃうっていうか、取り繕っちゃうタイプ。でもそれってお芝居にいらなかったんだなって気づきました。
──自分のお芝居に変化が生まれた実感は?
自分のなかの檻(おり)にいるトラウマという猛獣を、サーカス団の人間としてちょっと手なずけられたかもしれないです。
猛獣はやっぱり離れないんですよね。ただ、「今だったら暴れろ」っていうそのときに心の檻を開けるようにすると、役に入る速度が異常に速くなる。今作の泣き崩れるシーンとかもそうです。
撮影では、僕がテイク1からボロ泣きしちゃう現象が起き始めたんですよ。段取りのときから爆発しちゃうから、監督が「もうこれくらいでいいです。すぐ本番行きます」って言うくらいで。
最後のほうはファーストテイクでいいのが撮れていました。終盤の大切なシーンも朝の8時シュートで昼の2時には終わって。そのあと普通に買い物しましたもん。「俺さっきあんなすごいシーン撮ってたんだよなあ」って思いながら(笑)。
撮り終わったあと倒れこんでしまって、監督とスタイリストさんに支えてもらい、スタジオの外まで連れていっていただいたこともありました。こんなに身を削ったの初めてだなって。ものすごい硬かった自分の感覚や感情が、もみほぐれたんだと思います。