仙台工場食パンクーリング室
仙台工場食パンクーリング室

 そのため、どのメーカーも材料の半分の量を軽く捏(こ)ねて発酵させ、さらに残りの材料を加えて本捏ねするという、手間がかかるが品質が安定しやすい中種製法という方式でパンを作っていた。ストレート製法で大量生産が可能になればヒットするかもしれないと考えた。

 試行錯誤の末、開発を始めて2年余り過ぎた93年に思い描いた通りのもちもち食パンが完成した。

「もっちり、しっとり、ご飯のような食パンであり、日本の食パンであることも強調するために『本仕込』という和風のネーミングにしました。今では当たり前のようになった和風名の食パンはフジパンがはじめてなのです」(橋本さん)

 94年1月に本仕込という今までにない商品で全国に販売攻勢をかけた。その効果もあり認知度も向上し、本仕込の売り上げは初年度24億円、2年目には48億円と倍々に伸ばした。

「実は当初、CMでは『本仕込、フジパン』のフレーズを使っていたのですが、松下由樹さんを起用するときに『フジパン本仕込』と入れ替えました。今や『フジパン本仕込』は一つのフレーズとして定着した感がありますね」

 販売を開始して29年となる本仕込は今も少しずつ改良を重ねおいしさを追求している。

「当社は5月1日が創業記念日ですが、コロナ禍なので、大々的な式典などは控えることになりました。かなり前ですが、大阪の枚方工場で創業記念日にスポンサーだったラジオ番組に出演していたトリオ漫才の横山ホットブラザーズさんに式典に来ていただきました」

 フジパンのこれからについて橋本さんに聞くと、

「SDGsにより取り組まなければと考えています。食パンの袋を閉めるプラスチック製のバッグ・クロージャーを使わないようにするなどもそうですね」

 21坪からスタートしたフジパンは年商2600億円を超える大企業に成長した。橋本さんは最後にこう結んだ。

「フジパンには『一片のパンに人生あり』という言葉があります。パンで人々の暮らしをより豊かにしたいと考えています」

(本誌・鮎川哲也)

週刊朝日  2022年4月15日号

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