「今回、G2に、『やるよ』と言われて、『へぇ、あの本って今でも上演できるんだ』と思いました。年齢も性別も肩書も違う5人が、孤島にある、心のケアが専門のクリニックを訪れて、ストレスを取り除くために10歳の“こども”に返って共同生活を送るというコメディーホラーですが、今回の上演台本を読んだときは、ずっと上演し続けていくことが可能な作品なんだなってことを実感しましたね」
舞台が初演された90年といえば、バブル最後の年。かつてないほどの好景気に世の中は浮かれていた。升さん自身も、仕事はまあまあ順調で、元々ストレスをあまり感じない性格だったこともあり、台本に書かれた「ストレス」という言葉に、あまりリアリティーを感じなかったという。
「僕に限らず、演劇をやっているような人間は、もともとあまりストレスを感じないタイプが多いんです(笑)。平成を跨いで、令和になった今のほうが、子供から大人まで、『ストレス』が全ての不調の原因であることを自覚しているような気がします。だからこの舞台も、今のほうが共感性が高いのかもしれません」
この舞台がエポックとなり、升さんとG2さんは、劇団「MOTHER」を立ち上げることに。その後、ドラマ「沙粧妙子最後の事件」で、念願だった東京進出を果たす。
「大阪で過ごした日々は、世の中の景気も良く、いろんな媒体で使っていただいた。芝居のスキルも普通に通用したので、上京してから『20年間大阪でやっていたことが実を結んだな』と思いました。時間はかかったけれど、その20年がすごく大事に思えた」
(菊地陽子、構成/長沢明)
升毅(ます・たけし)/1955年生まれ。東京都出身。75年、NHK大阪放送劇団付属研究所に入所し、翌年初舞台を踏む。85年、演劇ユニット「売名行為」を結成。91年、演出家のG2らと共に、劇団「MOTHER」を立ち上げ、座長を務める。95年、東京に進出。2015~16年のNHK連続テレビ小説「あさが来た」ではヒロインの父親役を演じ、話題になった。「こどもの一生」には、今回で4度目の出演となる。
※週刊朝日 2022年4月15日号より抜粋