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「作品を展示するお部屋は、壁がとても奇麗なので、それも見ていただきたいと思います。漆喰の剥がれ具合とか、古びた壁紙とか」
そう大原さんが語るのは東京・銀座1丁目にある奥野ビル(旧銀座アパート)の306号室。
昭和初期の1932年に竣工したこの建物は、当時の集合住宅としてはかなり珍しく、エレベーターが設置された高級アパートだった。近年はタイル張りのレトロな外観を生かして、おしゃれな店が入居するビルとなっているが、内部も改装することなく往時の雰囲気を残すのが306号室だ。
大原さんはこの部屋で写真展「アラバスターの部屋 Safe in their alabaster chambers」を4月11日から開催する。
展示するのは10年ほど前に亡くなった父との葛藤の記憶を封じ込めた写真。
「吹っ切れたといいますか、自分の中で父親の名誉回復ができた。なんか、悪かったなって。そういうことを思いますね」
作品には、昔、父親が写した幼いころの大原さんの姿が写り、そこにアラバスター(方解石)や石英など、鉱物の結晶の塊の写真が重ねられている。
■それぞれの部屋にそれぞれの人生があった
大原さんが306号室で写真展を開きたいと思ったのは6年前。
「インターネットの記事を読んで、この部屋を維持する『銀座奥野ビル三〇六号室プロジェクト』のことを知ったんです。あの華やかな銀座にそんな空間が残されていることに驚いた。しかも、そこに須田芳子さんという女性が100年の生涯を終えるまで住んでいた。場所の持つ力じゃないですけど、そんな部屋で写真展を開けないかと常々思っていた」
須田さんは長年、この場所で美容室を営んできた。85年に店を閉じると、2009年に亡くなるまで306号室で暮らした。
「須田さんは秋田県のご出身だそうです。こんな銀座の一等地に美容室を開いて、成功しているはずなのに、秋田には一度も帰らなかった。自分と同じ東北出身の女性がこの部屋で人生を閉じた」