かねて棋界では、「将棋」と「学業」の両立は難しいといわれてきた。だが、時代の移ろいとともに、棋士たちの個性の幅が広がりつつある。天才たちをひもとくと、人生に子育てに効く「学び」がある。AERA 2022年4月18日号では、将棋に学ぶ「天才の育て方」を特集。そのなかから、ここでは中村太地七段と谷合廣紀四段のインタビューを紹介する。(こちらは22年4月14日の記事の再配信で、本文中の年齢・肩書はAERA掲載当時のままです。)
* * *
将棋界はよく「天才集団」だといわれる。
たとえば「将棋史上最強」と称えられる羽生善治九段。19歳で初タイトル竜王位を獲得し、25歳でタイトル七冠同時制覇を達成。「永世七冠」など数々の偉業を成し遂げ国民栄誉賞まで受賞した。
そして現代のスーパースター、藤井聡太竜王。14歳でプロ四段、19歳でタイトル五冠と、将棋界のほとんどの史上最年少記録を塗り替えつつある。
羽生、藤井の両者ともに「天才」というほか、どう形容していいのかわからないほどの、優れた頭脳の持ち主だ。
将棋界で「天才」の名を挙げていけば、それこそキリがない。その中で近年、注目を集めるのは、学業にも優れた棋士だ。代表的な例として挙げられるのは、中村太地七段(33)や谷合廣紀四段(28)などであろう。
完璧なロールモデル
中村は中高一貫の早稲田実業出身。同級生には野球で全国大会優勝を成し遂げた斎藤佑樹投手がいた。中村は高校在学中、17歳のときに四段としてプロデビュー。早稲田大学政治経済学部に進学し、論文「無党派層の政党好感度 政策と業績評価からのアプローチ」がコンクールで評価され、奨学金を与えられた。
以前、藤井の進学について母親に取材したとき「中村先生はすごい」という言葉を聞いた。世間の親御さんから見て中村は、わが子がこう育ってほしいと願うロールモデルとして完璧に近いだろう。
大学を優秀な成績で卒業したあと、2011年度は歴代2位の高勝率(0.851)をマーク。この記録は藤井にも抜かれていない。17年には羽生から王座を奪取し、初タイトルを獲得。NHKの情報番組でキャスターを務めるなど、将棋界を代表してコメントする機会も多い。温厚な人柄であり、「将来の将棋連盟会長」の呼び声も高い。