
だが、街に戒厳令は出されたままで、夜10時から翌朝6時まで外出は禁止。街灯も午後7時以降はすべて消える。空襲警報が一日中鳴りやまない日もある。ロシア軍が東部侵攻の動きを強めるなか、ドニプロは次の激戦地とされる。同市の行政当局は4月2日、ミサイル攻撃で石油施設などが大きな被害を受けたと発表した。
「街がいつ攻撃されるかもしれないという、緊張感は常にあります」
と話す石田さんは、戦争が始まる前、国外に避難するべきかどうか自問した。
命を守るには避難したほうがいい。だが、外国人である自分を差別しないで受け入れてくれたこの国には感謝の気持ちがある。危なくなったから逃げる、ということはできなかった。夫も残ることに反対しなかった。
復興していくと信じる
石田さんは今、ロシアに対して怒りはないと言う。
「最初こそロシアに対して怒りはありました。しかし、ロシアは過激な民族主義者がウクライナ人をあおっているなどと嘘をつき、その嘘をさらに固めるためにまた別の嘘をついてきました」
石田さんはイラストを描いたりものをつくったり、音楽を聴いたりするのが好きだ。人がゼロから何かを生み出すのに感動するという。しかし、ロシアのやり方は何も生み出さない。だから、ロシアの政治家が今さら何を言っても興味がない。
「ウクライナの人たちは独立を守ろうと一致団結して戦っています。今は苦しいですが、必ずいい方向に戦争は終わります。その後は多くの国からの援助をもらいながら、亡くなった人の命は決して無駄にせず、復興していくと信じています」(石田さん)
(編集部・野村昌二)
※AERA 2022年4月18日号より抜粋