日本人、とりわけ高齢者の「預金好き」は有名だ。デフレのうちは現物のお金が強いからよかったが、ここにきて急に「逆風」が吹き始めた。顕在化するインフレ、止まらない円安、「国力」は衰えるばかり……。「円預金」では資産防衛できない時代に入りつつある。
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「銀行に預けている『預金』が安全な資産だと思ったら大間違いですよ」
こう話すのは元銀行員の経済評論家、塚崎公義さんだ。
預金といえば「元本保証」が絶対原則。「ペイオフ」という公的な仕組みもあり、たとえ銀行が経営破綻しても1千万円までの元本とその利息は国が守ってくれる。誰しも「安全」と考えているはずだが、違うのか。
「今の預金は金利がほぼゼロで利息が付きません。物価が上がってインフレになると、その分、目減りしちゃうんです」(塚崎さん)
こういうことだ。例えば今、1本100円のボールペンがあったとして、1年後に物価上昇で110円に値上がりしたとしよう。今は100円玉をお店で出せば1本のボールペンが買えるが、1年後は100円玉では買えなくなる。100円玉の価値は今より下がることになる。
「預金は『リスク資産』なのです。預金ばかりに頼っていると、大切なお金がどんどん目減りすることになりかねません」(同)
今さらながら日本人は銀行預金が大好きだ。日銀の資金循環統計によると、個人金融資産2千兆円のうち、「現・預金」がざっと半分の1千兆円にもなる。とりわけ、この中で多くを占めるとみられているのが高齢者のお金だ。「預金オンリー」のお年寄りがいっぱいいる。
投資に詳しい経済コラムニスト、大江英樹さんもこう言う。
「高齢者に限ったことではありませんが、日本人はこれだけ金融資産を持っているのに銀行預金ばかりに偏っている姿を見ると『もったいない』と思ってしまいます。少しは投資に回せば、と思いますが……」
今までなら銀行預金でよかった。「失われた30年」の間、日本は長期停滞を続け、モノの値段が下がるデフレが続いた。デフレなら現物のお金が強い。「今日」より「明日」のほうがお金の価値は上がるからだ。