現代将棋ではAIによる研究は欠かせない。AIと人間の関係において、将棋界はその最前線の分野にあたるが、棋士たちは何を思うのか。17歳のときにプロデビューした中村太地七段(33)と、研究者やエンジニアとしての顔も持つ谷合廣紀四段(28)に真意を聞いた。
【写真】中村太地七段や谷合廣紀四段、そして羽生善治九段の言葉が掲載された教科書
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将棋界は多分に伝統的な側面がある一方で、ゲームとしての将棋はきわめて理知的だ。棋士になるような少年の多くは、算数・数学が得意な場合が多い。
谷合はその典型的な例だ。
現在、谷合は、5月におこなわれる世界コンピュータ将棋選手権に参加するため、ソフトの開発を進めている。
谷合:出るからには優勝したいんで。最低ラインぐらいまでは持っていけたかなというところですね。今までのそのディープラーニング系の将棋ソフトが画像処理的なのに対して、私のはちょっと自然言語処理的な枠組みです。
現代最先端の分野であるAIと人間との関わりにおいて、将棋界はその最前線の分野だ。
中村:将棋界は新しい、いいものは取り入れていく必要があります。だけど、変えちゃいけない部分もあるのは意識しています。やっぱり僕自身、AIでの研究は取り入れるようにしてます。現代将棋はAIなしには語れませんから。しかしそこを妄信しすぎると、自分の本当の将棋力っていうんですかね、今まで培ってきたものが崩れてしまう部分もあります。
「知」の最前線として
藤井聡太竜王の強さはよくAIと関連して語られる。しかし藤井が築き上げてきた実力は、AIが台頭する以前に、詰将棋を解くなど、伝統的な手法で培われたものだ。
「将棋のソフトが強くなっていくと、人間の思考がどういうものであるかが鏡に映すように浮かび上がってきます。コンピューターと比較することで、『人間はこういうところが優れているんだ』『ここが盲点なんだ』ということがわかってくるんです」
以上は高校の教科書(『現代の国語』東京書籍刊)に掲載されている言葉だ。発言の主は、あの羽生善治。羽生は現代社会を代表する知性の持ち主として、長くAIの分野に関するナビゲーター役も務めてきた。歴史を築き上げてきた天才をして、AIが導く人間力を、こう説いている。
現代の知の最前線の分野として、今後も将棋界は注目され続けるだろう。
(ライター・松本博文)
※AERA 2022年4月18日号より抜粋