子どもも楽しめる
14年、結婚した。新宿の路上をデモとして練り歩く行進披露宴のパフォーマンスも、Chim↑Pomの代表作のひとつになった。そして、妊娠、出産。この人生の一大イベントを通して見えてきた社会は、書籍『はい、こんにちは Chim↑Pomエリイの生活と意見』(新潮社刊)という“作品”になって、今年1月に出版された。
この展覧会「ハッピースプリング」にも、エリイさんが妊娠、出産を通して感じた社会が、とある施設に形を変えて会場に設置されている。クラウドファンディングで資金を集めたという託児所、「くらいんぐみゅーじあむ」だ。親たちが展覧会を楽しむ間、子どもたちを安心して預けられる、プロの保育士が常駐する託児スペース。美術館内の係員が座る椅子で授乳する姿を、メンバーが見かけるなどしたことを発端に、子どもが他の子と安心して遊べて、親にも作品をゆっくり楽しんでもらうためのスペースを作った。
子どもも楽しめる体験型の作品もあって、休みの日には通路にベビーカーがズラリと並ぶこともある。「まずは親がじっくり一周、そのあとに子どもを連れてもう一周するのがいい」。そんな意見を聞いて、「うれしかった」と言う。
コロナ禍も影響し、企画がスタートしてから2年。理想の展覧会に近づけるため、毎週ミーティングを開いた。そんな彼らを見てきた森美術館の館長、片岡真実さんは言う。
「Chim↑Pomは、今はあまり見かけない、いわば野生的感性を持つアーティスト。この2年で、不器用なほどにまじめなところを再認識しました。彼らは過激な作品の断片だけで判断されて物議を醸すこともありますが、こうして活動の全容を見てもらうことで、彼らのまた違った価値が見えてくればいいと思いますね」
彼らが切り取った社会は、私たちの誰もが心当たりがある社会。現代美術の沼に、いらっしゃい!(ライター・福光恵)
※AERA 2022年4月18日号