生まれてから初めて
当時のエリイさんは美大を目指して予備校にも通っていたが、当時知っていたアートといえば、ゴッホやシャガールなど、「ホテルの客室やレストランの化粧室にレプリカがかかっているような」(エリイさん)絵画ばかり。会田誠や塩田千春など、現代作家の作品に生まれて初めて触れて、大変な衝撃を受けた。
「自分では覚えていませんけど、人が生まれてから初めて立ったり、歩いたりしたときって、こういう体の感じではなかったのかなって。それくらいの(衝撃的な)感覚があった。帰る道すがら、『現代アーティストなら、頭で考えていることが職業になるんだ』と、現代美術作家の存在についても初めて意識したんです」
美大に進学した後、05年に「Chim↑Pom」を結成。ちなみにこのユニット名も名付け親はエリイさん。「じゃあ始めようか、みたいにスタートしたとき、私が国分寺の踏切を待っているときに決めた」そうだ。
その彼女がChim↑Pomの17年の活動を振り返った。思ったのは、「私の人生が(そのときどきの作品に)盛り込まれているな」ということ。「私小説」のように自分のプライバシーを盛り込んだわけではない。盛り込んだのはその向こうにある社会だ。
「私という一般市民を媒介させてできたものが、その時の社会を反映させた作品になる」
作品をたどることで、人々がどんなふうに遊んでいたか、どんなふうに街と関わっていたか、当時の社会が自分を通して体系的に見えてきた。
「よく私のChim↑Pomでの役割を聞かれるんですが、それぞれのメンバーが、その時々でできることをやります。Chim↑Pom会議というのを毎週して。タイトルは私がつけることが多いですね。ま、今回の展覧会を眺めていると、人生を作品に落とし込んでいくことが、私のChim↑Pomでの役割なのかもしれません」