「最後の1週間でやろうとしても無理なのは明らか。スケジュール管理には親の力が欠かせないと思います」
型紙の原型作成のときには、分数・小数の計算に加え、角度や立体図形の知識も必要となる。
「『ワンピースを作った』という事実だけでは、“体験”でしかない。ちょうど、小学校でも習い始めた小数の計算を積極的に組み込むことで、自由研究らしくなったと思います。『算数の計算はイヤ』と言っていた娘も、日常生活でも必要なもの、と理解できたと思います」
自由研究のアイデア自体も多様化している。
「子どもの夏休みの宿題を手伝う」というスタンスで2004年にスタートしたベネッセコーポレーション「全国小学生『未来』をつくるコンクール」の責任者、黒瀬裕之さんは、近年、「コロナ禍」と「SDGs」にまつわるテーマが増えていると感じている。
たとえば、ある小学4年生が選んだテーマは「効率の良い換気の仕方」。風の流れを一から検証していったという。また、ある小学3年生の女の子は、「魚の赤身と白身は何が違うのか」をテーマに選んだ。
「コロナ禍により、子どもたちが自宅にいる時間が長くなった。『家事』は、もともと身近なテーマでしたが、これまで以上に家庭内で起こることが目に留まるようになったのだと思います。さらにコロナ禍により、換気や手洗いといった“日常の困りごと”も出てきた。そうした困りごとを解決したい、という子どもたちの思いも感じられます」
■疑問に思うことが大切
「研究」というと、ニッチな理系のテーマを想像しがちだが、社会学的な研究をしてみるのもいい、と黒瀬さんは言う。ある小学生の男の子は、20年のコンクールで、「いかに兄弟ゲンカを減らせるか、母親を笑顔にできるか」をテーマに選んだ。自由研究を進めるなかで「相手を尊重することの大切さ」にたどり着き、黒瀬さん自身、「疑問を持つきっかけ」を得ることの大切さを改めて感じたという。
前出の「魚の赤身と白身の違い」などは、ネットで検索をすればすぐに答えはわかる。だが、「研究として価値があるかどうか以上に、子どもが『不思議だな』と疑問に思うことが大切」と黒瀬さんは言う。
「そのためには、子どもが日々疑問を持ったり、意識してみたりしようと思える環境をつくっていくことも必要だと思います。子どもと同じ目線に立ち、『これってなぜだと思う?』と、声かけをすることも大切になっていくのではないか、と思います」
(ライター・古谷ゆう子)
※AERA 2022年8月1日号