JR東日本の駅構内から、駅のシンボルでもある時計が消え始めている。コロナ禍による旅客収入の激減が背景の一つにあるというが、反対の声も上がる。AERA 2022年4月25日号より。
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「不便だよね」
JR中央線の大月駅(山梨県大月市)で、初老の男性は改札を抜けた先にある列車案内板に目をやった。二つの案内板の間には、かつてアナログ時計があった。それがいまはない。あと何分で列車が発車するか確認できなくなり困っているという。
大月駅をよく利用する女性(42)は、こう話した。
「最近見ないけど、盗まれちゃったの?」
いま、山梨県内で次々と駅の構内から時計が消えている。
「『時計がなく不便を感じる』などという苦情が数件来ています」
と、大月市役所の天野工(たくみ)総務部長は言う。
■市が再設置求める決議
天野部長によれば今年1月、市民から駅の時計がなくなっていると連絡を受けた。調べると、市内に6カ所あるJRの駅すべてで時計が撤去されていた。すぐ大月駅に「時計を戻してほしい」と口頭で要望したが、回答はなかったという。
大月市議会も2月25日、「時計を撤去しサービスを低下させた」と遺憾の意を表明し、時計の再設置を求める決議を賛成多数で可決した。同市の小林信保市長らは3月30日、東京都のJR東日本八王子支社を訪れ、時計の再設置を求める要望書を提出した。
なぜ、駅から時計が消えたのか。JR東広報部は次のように説明する。
「スマートフォンなどの普及により、多くのお客様がご自身で時間を確認する手段をお持ちであること、保守メンテナンスの負担軽減などを総合的に勘案して一部の駅構内の時計の設置を見直すことにしました」
どの駅の時計を撤去するかは、乗車人員や時計自体の老朽度合い、保守メンテナンス軽減などを総合的に判断して決めるという。JR東管内のほぼ全県で実施し、1626駅のうち約30%の約500駅が該当。昨年11月から開始し、これまで22駅(山梨県20駅、神奈川県2駅、1月26日時点)で行い、今後10年近くかけて残りを取り外していくという。
鉄道ジャーナリストの松本典久さんはこう見る。
「こんな部分にまで気を配らなくてはならなくなったという、緊急事態に直面していると考えられます」