時計があったころのJR大月駅の改札(写真:JR東日本提供)
時計があったころのJR大月駅の改札(写真:JR東日本提供)

■コロナ禍で大きな赤字

 コロナ禍で、多くの鉄道会社の旅客収入は大きく減っている。JR東の昨年3月期の最終的なもうけを示す純損益は5779億円の赤字で、1987年の国鉄民営化後では初の最終赤字となった。さらに、今年3月期の純損益も1600億円の赤字を見込む。松本さんは言う。

「各鉄道はコロナ禍による減収をフォローするため、さまざまな収入源を掘り起こし、支出の切り詰めを実施していると思われます。支出削減には何らかの固定費削減が効果的で、それゆえの時計撤去という話になったのでしょう」

 駅の時計は、簡易な電波時計とは異なり自動で時刻を修正する高精度な時計だ。JR東によれば、時計設備の維持管理や更新費用で年間4億円程度かかり、撤去することで年間約3億円の経費削減になる。撤去した時計は、一部状態が良いものについては必要なメンテナンスを施し販売も検討しているという。JR東は「何とぞご理解を」と説明する。

 確かに、「スマホや腕時計を見るので駅の時計はなくていい」「時代の流れ、致し方ない」といった声は少なくない。だが、天野部長はこう述べる。

「すべての人が時計やスマホを持っているわけではありません。高齢者や子どもたちも利用する駅は公共の場であり、時計は必要です」

 関東地方のある第三セクターの鉄道会社の幹部は言う。

「ダイヤ通りの運行を誇りとする日本の鉄道にとって、駅の時計はシンボルのようなもの。時計は、公共機関としての鉄道事業者の責任と思います」

(編集部・野村昌二)

AERA 2022年4月25日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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