「僕はよく人からメンタルが強いねと言われるのですが、悪意を込めた『口撃』は気にしないようにしています。ただ、アンチコメントの中には時にもっともな指摘も混ざっているので、それはしっかりと受け止めて、今後に生かしたいと考えています」

 新型コロナウイルス関連のツイートで一躍有名になった木下医師だが、そもそもツイッターを使って発信したかったのは、HPVワクチンの普及啓発だったという。HPVワクチンとは、子宮頸がんなどを予防する効果があるワクチン。諸外国の接種率は6~7割だが、日本の接種率は1%以下にとどまっている。

「13年に副反応が大きく報道されたことで、厚生労働省が積極的な接種の呼びかけを中止し、接種率がガクッと下がってしまいました。しかし近年では安全性が確認され、効果が見直されています。ワクチンを打たずに子宮頸がんになって命を落としたり、子どもを産めなくなったりといった悲劇をなくしたい。その一心で、ツイートをしてきました」

 木下医師はHPVワクチンの普及啓発プロジェクト「みんパピ!」の副代表も務め、各種メディアで情報を届けている。その熱意は実を結び、21年11月には、翌年4月からHPVワクチンの積極的接種勧奨の再開が決定した。

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 手軽さが売りのツイッターだが、木下医師のつぶやきの裏には、多大な労力がひそむ。

「新型コロナウイルスとHPVワクチン関連の論文はすべて取り寄せて目を通し、各国の医療政策にも目を配っています。そして、皆さんに伝えたい有益な情報をかみ砕いて、表現を工夫して伝えています」

 ツイッターに費やす時間は、論文を読む時間も合わせると1日に5~6時間になることも。

「自分のツイートが人の命を救うかもしれないと思うと、面倒くさいと感じることはないですね。HPVワクチンの接種率が諸外国並みになるまでは、まだまだ忙しい日々が続くと覚悟しています」

 病院内にとどまらず、マルチに活躍する木下医師。その経歴はいかなるものなのか。

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