「新型コロナウイルスワクチンやHPVワクチンの話をしたら、それはとても大切なことだからぜひ一緒に伝えましょうと言ってくださって、心強かったです。彼らは強い影響力を持っているので、これまで僕たちの声が届かなかったような層にも訴求できていると手応えを感じています」

 医師としての専門知識や命を尊ぶ気持ちを糧に、独自の道を突き進む木下医師。その立ち位置は一風変わったものにも思えるが、今の自身をどう捉えているのか。

「医学生時代は『世界一手術がうまくなって、自分の腕で人々を助けたい』と思っていました。今やっていることとは大違いです。ですが、悲惨な事故に遭ってしまった人の命を救いたいという気持ちと、HPVワクチンを打ち逃して子宮頸がんで亡くなってしまう悲劇をなくしたいという思いの根底にあるものは同じ。医師として人の命を救いたいというシンプルな動機です」

木下喬弘医師(きのした・たかひろ)

医師・公衆衛生学修士/「こびナビ」「みんパピ! 」副代表。2010年に大阪大学医学部を卒業後、大阪府内の救命救急センターを中心に医師として9年間の臨床経験を積む。19年にハーバード公衆衛生大学院に留学。在学中に取り組んだ日本のHPVワクチンに関する医療政策研究と啓発活動が評価され、20年度ハーバード公衆衛生大学院卒業賞(Gareth M. Green Award)を受賞。卒業後は米国で臨床研究に従事するかたわら、「手を洗う救急医Taka」としてTwitter(@mph_for_doctors)などで幅広く医療情報を発信している。20年「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」設立、副代表に就任。21年「CoV-Navi(こびナビ)」を設立、副代表に就任。

(文/林 菜穂子)

※週刊朝日MOOK『医者と医学部がわかる2022』から抜粋

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