1985年那須の御用邸で過ごす昭和天皇と香淳皇后
1985年那須の御用邸で過ごす昭和天皇と香淳皇后

 すぐにおかしいと気づき、靴の中を改めた。なんと形崩れ防止用の厚紙が入ったままだった。これでは履けるはずがない。

「内舎人も間違えるのだね」

 昭和天皇の言葉に、同席していた香淳皇后もそれは楽しそうに笑い声を響かせていたという。ベテラン内舎人の牧野さんが、こんなミスをするなど、疑いもしなかったのだ。

「精いっぱい仕事をした末の間違いには、実に寛容でいらした」(牧野さん)

 牧野さんは、昭和の陛下と平成時代の天皇は、自分にとっては全く違う天皇だったと話していた。しかし、厳しさと天皇という地位に対する心構えは次の天皇となる皇太子時代の明仁親王も同じであったという。牧野さんら内舎人の名前を呼ぶことも、ましてや気軽に声をかけることはなかった。会う機会があっても黙っている。しかし、

「ご苦労さま」

 そんな気持ちを込めて目線を返してくれていた。

 そうした立場のある男性皇族を支える意味を込めてなのか、にこやかに接してくれていたのが妃殿下方だったという。当時、皇太子妃であった美智子さまは通りすがりであっても、こう声をかけてくれたという。

「牧野さん、このたびはご苦労さまでした」

(AERAdot.編集部・永井貴子)