◆原稿の執筆者はコラムニスト?
政治家の演説を分析してきた米ユタ大学の東照二教授(社会言語学)は演説をこう評価する。
「ゼレンスキー大統領の話し方はどちらかというと淡々としていて、感情を交えて相手を惹きつけたり、重要なことを繰り返して強調したりといった演説のテクニックはそこまで突出していない。一方で、戦争がいかに凄惨か、多くの具体的事例やデータを挙げて事実を説明する『リポート・トーク』が非常に得意な印象です。危機にある国の代表がオンラインで直接話しかけるという特異な状況も含め、聴く人を惹きつけるものは確実にあると思います」
いわば、事前の準備の賜物とも言えそうだが、そうなると気になるのはこの演説がどのように書かれたのかだ。蔭山氏によると、労力から考えてすべてを大統領本人が書くのは現実的ではなく、スピーチライターがいるのは間違いないという。
ほとんど表舞台に出ることのないスピーチライターだが、英紙オブザーバーは演説を書いたとされる人物への取材に成功している。同紙によるとスピーチライターの一人は元ジャーナリストで政治アナリストのドミトロ・リトヴィン氏(38)。週刊誌でコラムニストとして働いていたドミトロ氏は現在キーウ(キエフ)の大統領府近くで生活し、毎日、大統領の感情や考えを収集してアイデアを取りまとめているという。同紙の取材には「スピーチでは感情が最も重要です。そしてもちろん大統領は感情と言論の作者です」と語っている。
世界中に支援を呼びかけて善戦するウクライナに対し、ロシアは「情報戦」で後れをとっている。軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が解説する。
「ロシアの情報機関であるFSBは、アメリカのトランプ支持者などに向けてフェイクニュースをばらまいたりしていたのですが、最近はファクトチェックも活発になり、ほとんど効果はないようです。戦争が始まってからは英語の発信は減り、代わりにロシア語の発信が多くなった。国内の情報統制にシフトしているようです。外部への発信を続けるウクライナと、内部への統制を強めるロシアは反対の方針をとっています」
「言葉の力」は、時に戦争の行方すらも左右する。(本誌・佐賀旭)
※週刊朝日 2022年5月6・13日合併号