SNSに投稿した動画で国民に語りかけるゼレンスキー氏
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 大国ロシアによる侵攻を果敢に食い止め続けるウクライナ。善戦の要因の一つが、世界各国の支援を得ることに成功したゼレンスキー大統領の巧みな「スピーチ術」だ。彼の言葉の何が人々の心を動かしているのか、その秘密を探った。

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 カーキ色のTシャツに無精ひげ。“大統領”らしくない姿で語る男に多くの人が心を打たれた。

 ロシアの侵攻によりウクライナ東部のドンバス地域などで戦闘が続く。ゼレンスキー大統領は4月19日のビデオ演説で「いまウクライナが必要とする武器・弾薬を持っているなら、自由を守るために協力するのが道徳的な義務だ。数千人ものウクライナ人を救う手助けをしてほしい」と訴えた。

 この局面を読んでいたのか、米国は13日に長射程の155ミリ榴弾砲やレーダーなどの提供を決定。19日には英国のジョンソン首相も大砲の提供を表明した。

 戦車の調達にも成功している。先月24日に北大西洋条約機構(NATO)の緊急首脳会議でのオンライン演説でゼレンスキー大統領は「あなた方は少なくとも2万両の戦車を持っています。ウクライナに、その1%をください」と呼びかけた。するとNATO加盟国のチェコは今月上旬、ウクライナ兵でも扱いやすい旧ソ連製のT72型戦車や歩兵戦闘車を提供した。

 こうした西側諸国を中心とした支援の流れに遅れまいと、19日には日本の岸田総理もウクライナへの財政支援の額を、1億ドルから3億ドルに増額すると表明した。

 ここまでウクライナ支援が広まっている背景には、3月上旬から始まったゼレンスキー大統領の各国議会でのオンライン演説行脚の効果があるだろう。嚆矢となった3月8日の英国議会での演説では、「我々は海で、空で戦い、どれだけ犠牲を出しても領土を守る」と、第2次世界大戦でナチス・ドイツに追い詰められた際に、チャーチル元英首相が国民を鼓舞した言葉を引用。さらに「生きるべきか、死ぬべきか」とシェークスピアまで引用してみせると、涙を浮かべる議員もいた。

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